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そのギャラリーの名はSUBMARINE GALLERY

ギャラリーの名前はSUBMARINE GALLERYとした。
この名前に決定するまでに数か月の間悩みに悩んだ。一番こだわったのはシンプルで覚えやすいギャラリー名にしたいということだった。複雑だったり、聞き覚えのない単語だったり、長い名称にしたくなかった。シンプルに一語、誰にもわかる言葉を探していた。
そんな時に家の中でふと目に留まったCDが、グラム・パーソンズが組んでいたバンド“The International Submarine Band”が唯一残したアルバムだった。
グラム・パーソンズについて簡単に説明すると、彼は同バンドで1967年にデビューし、直後にバンドは解散するが、そのまま「ミスター・タンブリンマン」などのヒット曲で知られるザ・バーズに加入してアルバム『ロデオの恋人』を作ったり、そこもすぐに去り、今度はフライング・ブリトゥー・ブラザーズというバンドを結成する。その一連の活動の中で「カントリー・ロック」という音楽ジャンルを確立したことでロック史に残る重要人物だ。ぼくはそのあとに出たソロアルバムも含めて彼の音楽活動が大好きだった。ちなみに彼は26歳の若さで亡くなった。
結論を言うと、サブマリンという言葉を見つけたのはそのバンド名がきっかけだった。しかもInternational Submarineという言葉がすごくかっこいいと思った。ただ、さすがにInternationalなギャラリーを標榜するにはまだ力がなさすぎると判断して、シンプルにSUBMARINE GALLERYという名前に決めたのだった。
特に潜水艦に思い入れがあったわけではないが、潜水艦は艦隊を作らない、つねに個として動く。つまり群れない、孤高のイメージだ。なんとなく自分もそういう存在でありたいと思って、サブマリンという言葉に惹かれるようになった。賑やかな地上の喧騒とは無縁に、海の中で孤独に、独自の道を進んでいく潜水艦。暗闇の中を高度な技術で前に進んでいく姿に、何か自分のこれからの未来の理想的な姿を重ねたのだった。そしてサブマリンという言葉にアンダーグラウンドな、少し怪しげな響きも感じた。ぼくはメジャーな世界(地上)から離れて、海中を彷徨いながら誰も知らない素晴らしいものに出会い、それを地上に持ち帰ろうなどと思った。
ところで、取引先の方などに「SUBMARINE GALLERYです」と名乗ると、かなりの頻度で「ビートルズですか?」と聞かれる。ビートルズの楽曲「イエロー・サブマリン」から連想するのだろうが、その曲のことはまったく頭になかったので意外だった。
ギャラリー名がようやく決まり、いよいよ動き出そうとするも、諸事情があり、しばらくは表立って活動することができなかった。まるで地下にずっと潜伏しているような期間が長く続き、本当の潜水艦みたいだなと思った。「最近どうしてるの?」と誰かに聞かれると「SUBMARINE GALLERYなので、海の底に沈んでます」と答えるという自虐ネタとしてもこの名前は最適だった。
また、あるお客様にギャラリー名を告げると「今は有名でないけど有能なアーティストさんを浮上させる機能を持つギャラリー、ということですね」と言われ、まったくうまいことおっしゃる!と嬉しくなった。
これからのギャラリー活動も浮き沈みを繰り返すのだろうが、だってサブマリンなんだからそういうものだ、と納得させられる効果もありそうだ。